デザイナーの皆さんから「作りたいイメージ」を募集し、それを具体化することのできる材料と技術を見つけていきます。作りたいものを形にするために、思いもよらない技術や素材の使い方を一緒に考えてみませんか?進行は月刊誌「室内」と連動し、3ヶ月間での具現化を目指し、その後には商品化も目指します。
▲これがECパネルです。ほぼ透明のパネルに、電源をオンにしたとたんに青く模様が浮かび上がってきます。それがじんわりと透明に戻っていくのです。オフの時には、模様はほとんど見えません。
前回お知らせしたように、「ウム」を使ったより完成度の高い試作品を製作するにはいくらかかるのか、その見積りをとっています。「ウム」で文字をオンオフ表示させ、底面 から光を当てて発光させる、という技術と材料の選択にはそれなりの自信を持っています。ですが、目指すゴールにたどり着くまで、常に多くの材料と技術の情報は仕入れておきたい。そんな中、「室内」の担当編集者が「南青山に面 白いギャラリーがあるんです。」と教えてくれました。透明なパネルが、じわじわと青くなるとか。早速古平さんと岡安さんとともに「ギャラリークオン」へ向かいました。



ギャラリークオンのオーナーは、株式会社ミクロ技術研究所という会社の、代表取締役 吉川実さんです。ミクロ技術研究所はエレクトロニクス産業の会社で、液晶やELなどの試作や製品開発、液晶用のカラーフィルターやEL用電極基盤、タッチパネルなどの生産を行っています。
ギャラリーはガラス張りで、「じわじわ青くなるパネル」が外からも見えます。中に入って、吉川さんに話を聞きました。このパネルはECパネルというもので、電気分解すると色が変わる性質の液体をガラスに挟んであるそうです。30年前からあり、決して珍しい技術ではないのだとか。当時表示方法のひとつとして期待されたものの、反応のスピードが遅い、紫外線に弱い、色の濃淡をコントロールできないといった点が液晶に劣り、市場から消えてしまいました。皆が見捨てたこの技術を、吉川さんは蘇らせようとこのギャラリーを開設したのです。
デザインという視点からみると、ECパネルは大きな魅力を秘めていると吉川さんは力説します。パネル1枚なら単3の乾電池で動き、オフの時に透明でオンにすると色が付く。エッチング加工すれば、面 の一部を青くすることもできます。デザイナーのアイデア次第で、新たな用途が生まれるに違いありません。では、私たちのプロジェクトに使えるかどうか。青ではなく白くなるかが大きな課題ですが、現時点では不可能というのが吉川さんからの答でした。青いと、下から光源を当てても光りません。古平さんもそこが気になると言います。



 今回のプロジェクトとECパネルは残念ながら結びつきませんでしたが、吉川さんにお会いできたことが大きな収穫でした。吉川さんは技術のプロでありながら、技術だけの視点で物事を見ない。回りを見渡しながら、別 の用途の可能性を探っていらっしゃる。そしてデザインに理解を示し、可能性を感じている。ECパネルで言えば、「表示」ではない別 の用途を見出すことで、古い技術を掘り起こしている。こういう方に会うと、とても心強く感じます。
吉川さんと話をしながら、「アプリケーションデザイン」という言葉が浮かんできました。日本語では、「用途開発のデザイン」と訳すのが的確かと思います。材料や技術、製作現場、ユーザーの欲求、デザインをうまくつなぎあわせる機能を指します。アプリケーションデザインこそ、この連載で試みてきたことを指す言葉なのだと、胸のつかえがすっとおりた気がしました。
これまで漠然と材料と技術を組み合わせれば、何か新しいものが出来るのではと単純に考えていた面がありました。そこに「これをやりたい」というデザイナーの意志がなければいけないと、この連載もリニューアルしましたが、それだけでは足りなかったのです。ゴールへの明確なイメージを持っているデザイナーと、材料や技術の専門的な側面から話を進めるエンジニア。双方を結ぶ存在が必要だと、今回やっと分かりました。材料と技術とお見合いをするデザイナーの仲介の役割が必要で、それがアプリケーションデザインを担うということなのです。
デザイナーが関わっていない材料や技術の分野は、まだまだたくさんあります。それを新たに用途開発することは、デザインの可能性を拡げていくことにつながります。例えば「ウム」は、仕切りなど大面積に使うことを前提とした材料ですが、それを小さな文字の形にしたことで新しい使い方が生まれ、古平さんのイメージに少し近づいてきました。
インテリアデザイナーやインテリアコーディネーターが、言葉が世間に定着したからこそ職業として認められるようになったように、アプリケーションデザイナーも、言葉が定着することでデザイン関連の職業のひとつになるはずです。吉川さんの話を聞いて、是非今回はこのことを伝えたいと思いました。
  
 
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