
「ウムのファンを全国に増やしたい」と、マネージャー・清水政樹さん。
ふだんは乳白色のくもりガラスなのに、電気を流すと瞬間的に透明になって、
ショーケースの中味や、向こうの景色がクリアに見える──。
日本板硝子ウムプロダクツの瞬間調光ガラス「ウム」は、
すでに発売から20年以上経つ素材です。
透明・不透明の秘密は、合わせガラスの内部にはめ込まれた特殊な液晶フィルムにあります。
通常は不規則に並んで、光を拡散する液晶分子が、通電状態になると一瞬の間に整列し、
光を透過させるようになるのです。
その切り替えは、不透明状態から透明になるまでわずか1000分の1秒。
パネルに電極をセットする必要はありますが、消費電力は1平米あたりわずか3.5W(100Vタイプ)。
人が近づいたり、音楽が鳴ると透明・不透明を繰り返すなど各種センサーと組みあわせたコントロールも自由自在。
「有無」からの命名でも想像できるように、素材の存在感をときには見せたり、
隠したりすることで、面白い演出効果が期待できます。
ウムの導入はまず建築インテリア分野で始まりました。
たとえば、外界に面したオフィスの会議室の仕切りをふだんは透明にしておき、
会議中だけ不透明にすることで、空間の広がりと使用中のプライバシーを切り替えることができます。
工場見学通路の仕切りをウムに変えることで、特定の見学者に見られたくないところだけ、
不透明にするようにした企業もあります。こうした効果は個人住宅やホテルにも応用できるもの。
演出効果以外にも、プライバシーやセキュリティの管理、部屋・施設のサイン表示、
光の拡散による西日対策や防眩効果などさまざまな機能がウムにはあります。
最近、好評なのは産婦人科の新生児室の仕切りガラス。
ふだんは不透明にしておき、親族が対面に来たときなど指定された時間だけ、
ワンタッチで透明にして新生児と対面できるようにしています。
ブラインドやカーテンのような埃の問題もなく、静謐で清潔な環境が保たれます。赤ちゃんたちだけでなく、
看護士さんたちも、常時、人から見られているというストレスが解消され、それがヒットの要因になりました。
公共分野での導入例では、神戸・六甲アイランドの高架を走る「六甲ライナー」が知られています。
開通後に、近隣の高層マンション住民からプライバシー保護の要望が出たため、
窓ガラスをウムに変えることになりました。
眺望のよいところでは窓は透明なままですが、住宅に近接するゾーンに電車が入ると、
一瞬で曇るようになっています。
このように建築・公共分野での利用が進んできたウムですが、
「今後はインパクトのある遊びの要素にも注目してもらって、新たな用途を広げたい」
と同社・清水政樹マネージャーは期待しています。
あくまでも同社は材料供給者として拡販を狙う立場ですが、
小サイズのウムフィルムを活用するサンプルとして、このほどミニチュア・ショーケースを製作。
これは日本産の高級緑茶サプリメント拡販のために、
ロシアの薬局5000軒に店頭ディスプレイとして順次導入される話が進んでいます。
「川下の最終商品まで手がけることで、市場ニーズの実際を確認したかった。
ただ、これは客先から新規商品プランを引き出すためのあくまでプロトタイプ。
一方的に私たちが用途や商品を押し売りするのではなく、
クリエイターの想像力を刺激しながら、より大きなマーケット需要を喚起したい」と清水さんは話します。
空想生活とのコラボレーションもこうしたマーケティング手法の一環。
透明・不透明をワンタッチで切り替えられるウムの演出性は、クリエイターたちの琴線に触れるようで、
すでに冷蔵庫の扉や車のサンバイザー、必要なときだけ透明になる"魔法の鞄"など、さまざまな用途が提案されています。
その多くが同社にとっては「想定済み」のアイデアだとはいえ、決して無駄ではありません。
「冷蔵庫の扉などは過去に6回もメーカーとの協議が繰り返された経緯があります。
実用に至らなかったのはコスト問題。
しかし、こうした発想が根強いことがわかって、
あらためて市場から期待されていることがわかりました」(清水さん)
最近はウムフィルムそのもののメディアとしての機能に注目して、スクリーン・アート作品の表現装置として使う
アーティスト
も登場しています。
「そういう作品に触れるたびに面白いなあと私自身が刺激を受けます」と、清水マネージャー。
ウムの展示パネルやプレゼン用PCなどを詰め込んだ13kgの重い鞄を毎日持ち歩きながら、
まるでウムの"伝道師"のように全国を飛び回る日々。
「いますぐにウムを売るというより、ウムのファンを広げるのが私の仕事。
数年先の需要のタネを蒔いて歩いているのです」

エステの施術室での施工例。ウムの向こうの施術用の椅子が、見えなくなったり、現れたり……。