
スモーカーにとって、たばこの時間は、大切なリフレッシュタイム。けれども、その楽しみをこの先ずっと続けるためには、周囲へのマナーが欠かせません。マナーのなかでも気になるのが、吸いさしのたばこの煙。たばこの先から立ち上る副流煙は、喫煙者が吐き出す主流煙に比べても、有害物質量が多いという話もあります。
副流煙対策には、強力なファンを回して、濾過・排気するクリーナーがあればいいのですが、しかし、これは音が気になります。深夜一人物思いに沈みながらくゆらすたばこの時間を、それは邪魔するものです。
いっそのこと、灰皿自体に煙を出にくくする仕掛けを施してはどうか。喫煙具ファンの間では世界屈指のライターメーカーとして知られる坪田パールが、いまその研究を進めています。
「ロウソクが鍵なんですよ」と、坪田栄一社長が手にするその灰皿は、薄い鉄板を「へらしぼり」という技術で加工したキューブ状の物体。大きさは中玉のリンゴほど。その天頂には、小さなロウソクの炎がゆらゆらとゆらめいています。あれっ、これって灰皿じゃなくて、燭台?
キューブを分解すると、意外と構造は複雑。大きく、上部のドーム状の覆い部分と下部の受け皿にわかれ、下の受け皿には断面がかまぼこ形の口が空いており、そこに吸いさしのたばこを入れて灰を落とす仕組みです。たばこの煙はドーム内を滞留しながら、ロウソクの炎に吸い上げられ、そのときロウソクの熱でもう一度燃やされるのです。
パソコンに向かって原稿を書いているときは、一時もたばこを手放せないというライターの平岡修一さんに、この「煙の出にくい灰皿」を試用してもらいました。
「何もしないと紫煙が灰皿から立ち昇るのに、ロウソクに火をつけると、あら不思議。ほとんど煙が見えなくなります。これには驚いた。ロウソクの煙燃焼効果はたしかにあるようです。いつもはたばこ臭いと私の書斎に入りたがらないノンスモーカーの妻も、これなら許せるかも、アロマキャンドルにしたらもっといいって言ってますね」
モーター、ファンなどの駆動部分を一切もたず、もちろん電池も不要。ロウソクというローテクな燃焼システムを活かしたアイデアは特筆もので、昨年実用新案を取得しました。なかでも苦労したのが、ロウソクのカップを覆うキャンドルカバーの設計だとか。カップとカバーの間のすきまが、煙の通り道になるのですが、そこが大きくても小さくてもうまくいかない。
「たばこをさし込む開口部の大きさや位置もまだ試行錯誤中。小さすぎると入れにくいし、大きすぎると煙が逆流してしまうんです」と坪田さん。
「たしかに、現状の試作品ではたばこを置きにくい。出し入れするうちに、たばこの先端の灰を灰皿の外にこぼしてしまいます」と、平岡さんもその点を指摘します。
「全体のデザインもキューブ状にこだわらず、円錐、角錐などいろいろと試してみたい。材質も金属だけでなく、ガラス、陶器、樹脂などいろんな可能性があります。最終的には、たんに煙が出にくいという機能性だけじゃなく、机上を飾る高級感のあるインテリアとして仕上げたい。それでいて、お値段は5000~8000円程度まで」と、坪田さん。
この灰皿には、スモーカーとノンスモーカーが共存できる、新しい世界を創る鍵があるかもしれません。最初のアイデアからすでに6年。「空想生活のコメントを読むと、早く世に出さなくてはという気持ちになります」と坪田さんは、いま最終的な完成イメージを練り上げているところです。
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「ロウソクの科学」から生まれた煙の出にくい灰皿