阿部さんは33歳。MBA取得後、外資系投資銀行にてM&A・IPO担当、マーケティング会社で営業を担当したのち入社。日本の職人芸の伝統を感じながらも、それに新しい可能性を日々見出しているとのこと。東京・新宿の同社ショールームにて。
建具とは、室内空間をくぎるため、あるいは開口部を開閉するために設ける住宅設備のこと。英語では fixtures だが、設備、備品という意味合いの強い英語と日本語のそれは少々ニュアンスが異なります。なぜなら、日本の建具の代表は引き戸、雨戸、障子、襖などであって、たんなる設備という以上に、日本文化の深層に大きな影響を残す文化財でもあるからなのです。
「住居のなかに自然をたくみに取り込んできた日本人の暮らし。たとえば障子は平安時代からあって、日本家屋に光と外気を調節しながら取り入れる役割を果たしてきました。とりわけ、桟の間に絹や和紙を貼った採光用の"明かり障子"は、時代とともに桟の組み方や意匠にさまざまな工夫が凝らされ、日本家屋の美しいたたずまいを形成する重要な機構だったのです」
というのは、建具・ドア・造作家具の専門メーカー・阿部興業の阿部清光・営業企画部 次長。社業の歴史は60年以上に及ぶ。なかでも和建具については、ハウスメーカー、住設メーカー、工務店などその販売網は全国に1万2400社を数え、国内随一の販売量を誇ります。
建具の組立技術のなかで最も重要なのは「組子(くみこ)」。もともとは障子や襖などの建具を構成する縦横の細い部材を指すのですが、これらを釘や接着剤を一切使わず組み上げる工法のことでもあります。細くひき割った木に溝をつけ1本1本組付けする繊細な匠の世界。材の一部を曲げて装飾性を高めた曲げ組子、材を山型の五角形に面取りしたトキン組みなど、伝統的な工法だけで幾種類もあり、それらを多彩に組み合わせることで、デザインのバリエーションが広がるのです。
「組子の種類、材の厚みや材質、色を変えることで、まるで屏風絵かタペストリーかと見紛うような間仕切戸をつくることもできます。組子というと伝統的な紋様をイメージされる人がまだ多いと思いますが、トラッドからモダンまで、和洋を問わないパターンを生み出すことができる可能性のある技術だと思います」と阿部さん。
近年は日本家屋や和室そのものが減少しているが、いっぽうで高級志向、ホンモノ志向も強まっており、組子の価値はけっして減じていません。
「とはいえ、一口にホンモノ志向といってもその中味はさまざま。それぞれのニーズに、私たちの和建具がどこまでマッチしているか、たえず研究を重ねる必要があります」と、阿部さんは新たな市場開拓や異分野のクリエイターとのコラボレーションに強い関心を示します。これまでも音響メーカーと共同で、引き戸にスクリーンを埋め込んだホームシアター用引戸の提案を行ったりしているのです。今年のインテリアフェスティバルにも出展予定とのこと。
「たんに単品のインテリアというだけでなく、和建具を介した新しい空間の使い方、和建具の機構性を新しい感覚でとらえる発想、さらにいえば新しいライフスタイルの提案というところまで行ければ」と構想は広がります。
国内市場の深耕が第一の課題だが、和の文化の輸出にも興味は絶えない。創業社長の代には、組み立て式の茶室キットを考案、サンフランシスコ州立大学に寄贈した実績がある。また、2006年にはパリ国際家具見本市(Salon du Meuble de Paris)にも出展。
「たんなる和風趣味を超えて、引戸そのものが欧米では、空間を効率的に使うソリューションとして注目されていることを実感しました」(阿部さん)。
2006年1月、パリ国際家具見本市の「ニッポン・デザイン」コーナーに初出展。組子の明かり障子が演出する光と影の空間は、会場でも本物感を放っていました。「将来は、ミラノサローネ国際家具見本市にも出展したい」と阿部さん。
組子を芸術の域まで高めた「名匠建具」のシリーズ。中村光敬氏のこの作品は、木曽檜赤を主な素材とし、帯の部分は色違い材を使用して、立体的な流れを表現している。