以前、空想マガジン・テクノロジライブラリにご登場いただいた高砂鐵工株式会社。ステンレスおよび鋼の製造加工技術に長けている同社の工場をぜひ見学させてもらいたいとお願いしたところ、嬉しいことに快い返事が! そこで、2月24日に同社の工場へお伺いして、開発営業部長・松本和也さんと、開発企画推進チームマネジャー・農澤英夫さんのお二人に、東京板橋にある工場を案内していただきました。
工場見学参加者は10人。到着して、軍手、ヘルメット、そして暖かい防寒具を着用すると、「工場に入るんだ」という実感が少しだけ湧いてきました。そしてみどり色の安全通路をたどって、いよいよ工場内へ。まず目に飛びこんできたのが、ステンレスの鋼板をぐるぐるーっと巻いた大きなホットコイルでした。コイルの中にはなんと重さが10tぐらいのものもあるそうです。迫力ある工場の風景に、一同興奮を隠せません。
この工場で働いている方々が口にする「ご安全に!」という耳慣れない言葉が気になり、松本さんと農澤さんに聞いたところ、これは工場内特有の挨拶なのだそうです。普段私たちは「お疲れ様です」と挨拶することが多いですよね。危険にさらされることもある工場内での挨拶は「ご安全に!」なのだという説明に、なるほどと納得しました。
ステンレスの製造は、圧延→焼鈍酸洗(しょうどんさんせん)→調質(ちょうしつ)→精整(せいせい)といった工程を経ます。この工程の中で、様々な用途に合うように仕上げていきます。ダイジェストではありますが、見学させていただいた工場の様子をお届けします。
まず、ムダのない加工をするための準備をします。圧延とは、圧延機にかけて延ばすことで、その製品に必要な厚さに調節するための作業です。ホットコイルを巻きほぐし、ギザギザのミミ(端)を耳切断リーダー溶接設備で切り落とします。途中で負荷が加わって破れたりしないようにする、大切な工程です。そして、コイルに巻かれたステンレスを、ゼンヂミア圧延機にかけ、厚さを整えていきます。
また、通常であれば使い道のないロールの始端と終端に、リーダーといわれる鋼板を溶接して結合させます。こうすることで、きれいなステンレス鋼板をムダなく生産出来るのです。しかもこのリーダーは、何度も活用することが出来ます。
ムダはなるべく省き、使えるものは何回も使う。そして、手を抜かず丁寧に加工されていることが、初期の工程からも伝わってきます。それにしても、工場内の機械はとてもダイナミック。そして、リズムを変えて回転したり太さの異なるロールが交互に連動しながら圧延したりと、驚くほど高度で緻密な技術が集約されていることに驚きます!
まさにここでは、ものづくりの熱い魂と、情熱が動いているのです。
圧延加工で硬化したステンレスの組織は、この時点ではまだ歪みがあり、割れなどの原因となるため、適確な加工ができません。そのためにもう一度高熱を加え、さらに冷却することで再結晶させ、展延性を向上させます。そして、高熱により変色した表面は酸で洗います。
油の多いところには古布を使った大きなウエス、少ないエネルギーで稼動する機械の仕組みなど、工場内の各所にはエコの取り組みを実践されています。
焼鈍が施されたステンレスは、表面は鏡のようですが波を打っています。それはさながら洗い立てのワイシャツのようです。そこから先の作業も、シャツに アイロンをかけるように、調質圧延機でステンレスを平らにしていきます。すると本当に曇りのない鏡のような表情があらわれるのです。またこのとき、用途に合わせてデザインされたエンボス模様も施していきます。 この工程を終えてやっと、私たちが日常目にするステンレスの状態になってきました。
すべての工程を終えると、精整と呼ばれる作業に入ります。ステンレスコイルにはキズがつかないようにフィルムが張られ、隙間なくかっちり巻かれています。流通状態に合わせた梱包もされて、次の加工工場に向けての準備も万端です。
今回ここで目にしたステンレスが、ボタン電池や携帯電話、冷蔵庫、はたまたキッチン、車へと姿を変えて私たちの生活に登場するのがとても楽しみになりました。
工場見学の締めくくりは、もの作り体験です。参加者のみなさんに、エンボスステンレスを使ってマウスパッド制作を体験してもらいました。高砂鐵工には、素敵な花柄や、ポップな水玉模様、幾何学的なデザインなど、様々なエンボス模様があります。間近で見ると、このまま飾っておきたい程きれいです。エンボスステンレスの特徴を活かしたアイデアがどんどん生まれてきそうです。
さびにくくて、長持ちし、手入れも簡単でとても便利なステンレス。さらにはとても優秀なリサイクル素材でもあります。地球の資源を減らすことなく、新しい製品に生まれ変わることができるのです。
そんなステンレスも、一般的に普及し始めてからまだ50年! たくさんの可能性を秘めたステンレスの開発に、情熱を持ってうちこむ方々の挑戦は、未来へ向けて続いていきます。
普段接しているステンレスという馴染みのある素材も、このような過程を経て、生まれていています。どんなに小さな部品になっても、それに関わる人の汗と努力があるのだと感じました。今回、様々な方に参加いただきましたが、「体験することができて、本当によかった」「知っていたつもりでいました」と知らなかったことへの気づきとしてとらえていただくこともできました。 ご協力いいただいた高砂鐵工の松本さん、農澤さん、貴重な体験、ありがとうございました。