空想マガジン
デザインの舞台裏 第20回
エムピウ 村上雄一郎さん

建築と革製品。この、まったく離れた二つの世界を結びつけて自らの職としたのが、今回登場いただく村上雄一郎さんです。村上さんは東京蔵前にあるショールームと工房「エムピウ」のオーナーであり、現在、ショールームはもちろん、インターネットや全国のショップを通じてバッグや財布、ペンケースなどのオリジナル革小物を販売。また、様々なメーカーのために革小物のデザインも行っています。

村上雄一郎さん

村上雄一郎さん

イタリアで修業

大学卒業後は設計事務所に勤務していた村上さん。革の世界へ転身なさったきっかけは何だったのでしょうか?
「設計事務所に勤めていた時から、革で自分のお財布、時計、ベルト、バッグ、全部自分で作っていたんですよね。だからやっぱり、革の小物をデザインして作ることが好きだったんだと思います」
飄々としながらも暖かい雰囲気の村上さん、気負うことなく異なる世界に飛びこんだように聞こえますが、それは大胆な方向転換だったことでしょう。転身を決めた後、革製品の本場であるイタリア・フィレンツェに行き、現地の職業訓練校に入学したというのですから、行動力もバッチリです。その時村上さんは29歳。「本場で修業をする」ことが、30歳を目前に控えての転身に有効だということも、しっかり見据えての行動でした。訓練校に通いつつ、革工房にも足を運び、実際の製作現場を経験。革ではなく布という素材の違いこそあれど、ベネトンのアクセサリー部門でのサンプル作りという得がたい経験もなさったそうです。
「フィレンツェでも数人しか作れる職人が残っていない小銭入れの工房に行ったり、本場ならではの時間を過ごせたことが、やはりとても貴重でした」
と村上さんは言います。気持ちを行動に移すことが、後々大きなパワーになるのだと、村上さんの話をお聞きしていると改めて感じます。

味が出てくる、それが革の魅力

2000年に帰国し、翌年にはブランドを立ち上げました。そして蔵前にショールームを構えて約2年。蔵前という場所を選んだのは、革の問屋や工場が集まっているエリアだから。帰国してしばらくした2004年には、廃校になった小学校を利用した「台東区デザイナーズビレッジ」に籍を置いていたそうです。
建築から革の世界へ。大きな空間から、手のひらに載るほどの小さなプロダクトへ。村上さん、その魅力は一体どんなところでしょう?
「もちろん、建築だって面白いし、とても好きです。でも建築は大きすぎて、図面を引くことは出来ても、自分で作り出すことは出来ない。その点、いま僕が作っている革製品は自分の手でつくり出すことが出来ます。それに革の持つ、両端を縫えばすぐに使えるという簡単さが僕には大きな魅力です。一度縫ってみてももっといい形があればやり直せるし、使ってなでているうちにいい味が出てくる。いろんな素材がある中で、革の持つしなやかさや柔軟さが僕には合っているんだと思う。ほら、鉄とかは重そうだし、大きな音も出るし(笑)」
作ることも好きで、作りたいものはたくさんあって、そして売るからにはきちんと売りたいとおっしゃいます。
「それには時間の使い方を工夫しないといけない、最近そう感じています。仕事は楽しい。どんどん作りたい。でも基本的に一人でやっていますから、いろんな雑務も自分でしないといけない」
同じ事を感じている読者の方は多いのではないでしょうか。企画、デザイン、パターン作りを同時進行しながら、雑務もこなす村上さん。それは大変に違いないのだけれど、やっぱり飄々としていて、そしてとても楽しそうでした。

革のお財布

村上さんオススメ、革のお財布 millefoglie(ミッレフォッリエ)
側面にある留め金具が面白い造りになっています。

ショールームの様子

ショールームの様子。革製品がきれいにディスプレイされていて、
つい手にとってしまいます。