パオラ・アントネッリ。
MoMAのデザインキュレーターとして著名な彼女とは、年に一度、お会いする機会があります。
そのパオラが少し前に贈ってくれたのが、自身が編集した『Humble Masterpieces』。
2004年にMoMAで開催された展覧会の図録とも言えるもので、
彼女の視点で集められた「控えめな定番商品」が、秀逸な写真とともに紹介されています。
プッシュピン、LEGO、ポストイット、シャンパンのコルク、
m & m'sのチョコレート、ルービックキューブ、チュッパチャプス……。
デザインなのにチョコレート?と思うかも知れませんが、
溶けやすく手が汚れてしまいかねないチョコレートにコーティングを施すことで、
常温でも携帯できるようにしたm & m'sは、なるほど、デザインされている立派なプロダクトです。
時代を変えるほどではないかも知れないけれど、過去からの引用をしっかりと踏まえて生まれたこれらは、
前回紹介した「デザインの原型」の手前に位置していると言えそうです。
第28回で紹介した
『INVENTING MODERN AMERICA』
に登場しているものもいくつか見受けられます。
引用物の強さを活かした上で、工夫が凝らされているものが多いのは、パオラならではの視点でしょう。
この「引用」という行為は、ファッションなどの分野では広く行われてきたもの。
原型を組み合わせ、編集しながら、新たな「原型」を作り出していく。
ジーンズしかり、スニーカーしかり、Tシャツもそうですよね。
ほかには、料理も引用上手な分野で、いろんな文化を背景に持つ料理が、時代時代で融合されて新しい味が生まれている。
料理と言えば、インターネットを利用した「クックパッド」は、ユーザーが引用の機能を使い始めている好例です。
僕たちのフィールドであるものづくりの現場は、引用や転用のスキルはもちろんあるけれども、
それがユーザーにまで浸透するのはこれからの課題になりそうです。
以前紹介した
『Make』
や
『Home-Made: CONTEMPORARY RUSSIAN FOLK ARTIFACTS』
は、この課題に取り組む人たちによって生まれ、作られている。
日々の生活の工夫をデザインと呼ぶかどうかは熟考が必要かも知れませんが、
あのような媒体から淘汰されたものが、今回の『Humble Masterpieces』に載っているという見方ができます。
引用は、いろんな可能性を秘めている。
「おばあさんの知恵袋」のような視点が、もの作りにも求められているし、
新たな価値を生み出すと思います。
知恵袋は、ロイヤリティーを生むかも知れない。
そう考えれば、ユーザー発信の引用をおろそかにはできないと思いませんか。
ものづくりを、『使いこなしの洗練』具合だと捉えたのが、この本の特色ではないでしょうか