空想マガジン
ニシヤマ書店 第33回 The Art of The Motorcycle
二十世紀の後半をこうして駆け抜けた
美術館にオートバイ。縁のない取り合わせに思えますが、世界中の「イージーライダー」たちが美術館を目指したのでは、という展覧会が以前開かれたことがあります。1998年、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で開かれた「The Art of The Motorcycle」展がそれ。僕が何故この展覧会を印象的に覚えているかというと、当時のガールフレンドが図録をプレゼントしてくれたから。オートバイがアートとしてずらりと並び、革ジャンを着たライダーたちが美術館を埋め尽くしていたと聞いて、痛快でした。だってライダーは毎日アートに乗っていることになるわけですから!

オートバイが持つ不思議な魔力。それはサーフィンに通じるものがあると思います。スピード感がもたらす力が、ライダーやサーファー、つまりユーザーを強烈に引き付けている。道具であるバイクやボードをカスタマイズして自分にあったものに仕立てる人が多い点も共通ですし、道具の姿そのものが格好いいのも同じですね。カタログにはオートバイの変遷も載っていて、それを見るだけでも面白い。人間のライフスタイルの変化にあわせて、オートバイのスタイルも変わってきたことがよくわかります。ちなみにこの図録の最初に掲載されている論文の見出しが "The motorcycle,at its core,is both an object of commerce and fetish " そう、オートバイは商品であると同時にフェティッシュなもの。まっすぐな道をひたすら走りたい、様々な束縛から解放されたい、車よりも安く交通手段を手に入れたいといった様々な気持にこたえるすぐれたツールであることと、ボディに施されたペインティングや機能と装飾が同居しているパーツの数々といったデザインの魅力。メーカーに頼らず、自分たちで手を加えてより魅力がことへの高揚感は、まさに ユーザーイノベーション の醍醐味。ライダーたちは、偉大なるイノベーターなのです。「よくここまで造りかえたなー」という改造車は、ファッションでもあり、知恵が凝縮されたすぐれたプロダクトでもある。

この展覧会は、ユーザーイノベーションの本質を突いている内容だと思います。誰もがモノをつくり出す力を持っていて、それは人間の力の根源的なものだということが、図録を見ているとよくわかる。古代のように自然の産物から作るのではなく、人工物をカスタマイズすることから生まれるのが、現代のものづくりと言うことが出来るのではないでしょうか。自分のオートバイをカスタマイズするライダー、ボードをいじるサーファー、キッチンを自分だけの城に仕立てていく主婦、不要品から孫のおもちゃをつくり出すおじいちゃん……、僕にとっては、みんなイノベーター、現代のものづくりの一端を担っている愛すべき人たちなのです。

僕もバイク乗りだったのですが、免許不保持者となった今は乗れず、悲しい……。サーファーやライダーが身体の延長のようにボードやバイクを乗りこなし、自分に合わせてチューニング、カスタマイズ、メンテナンスして乗りこなす感覚は特筆もの。住宅も同じように自分仕立てに住みこなし、チューンナップする人が増えたら、様々なことが変わるはず。呼び名はホーマーでしょうか。 © Guggenheim Museum 1998