空想マガジン
ニシヤマ書店 第32回 黒木靖夫さんの本
2007年7月12日、黒木靖夫さんが逝去されました。74歳。心よりご冥福をお祈りいたします。

ソニー時代の世界的な大ヒット作ウォークマン、つくば科学万博のジャンボトリニトロン。取締役を辞してご自身の事務所を設立してからは、富山総合デザインセンター所長を務められ、地方からデザインを発信することにも腐心なさった。わが国のデザインを語る時、まずお名前が挙がる存在です。抜本的にものごとを変える力をもっていて、ウォークマンがなければiPodもiTunesも生まれなかったでしょう。黒木さんが世の中を革新的に変えたのです。黒木さんはソニーが誇るデザインリーダーであり、同時にイノベーターを育成する能力に長けた方でした。「どういう生活をしたいか」という視点から道具をつくり出そうとし、必要な技術を開発するためにエンジニアを鼓舞したのでしょう。ルイス・サリバンの“Form follows function(形態は機能に従う)”という言葉を、黒木さんはよくお使いになっていました。21世紀に入り、デジタルにおいてより大事なのはフィクション、つまり「こうなるだろう」という視点が大事だと、僕に話してくれました。“Function follows fiction”そして“Form follows fiction”が大事なのだとお考えになっていたのではないかと思います。

僕が黒木さんと初めてお会いしたのは1999年のこと。雑誌『BRUTUS』で連載していた「空想家電」に、家電の歴史を作った方にぜひご登場願いたいということがきっかけでした。懐中電灯形の小さなプロジェクター「PROSPECTA」を考えてくれました。それが縁で僕たちの活動にも興味を示して下さり、エレファントデザインの顧問になっていただいたのです。毎年新年には挨拶にうかがいました。黒木さんの話はそのまま日本のデザイン史であり、とても貴重な時間をご一緒できたのだと、いまあらためて思います。実は黒木さんの「電波時計でいいデザインのものがない」という言葉をきっかけに、空想生活で商品化しようと計画を進めていたところでした(注)。しかし商品化を一番に望むご本人がいらっしゃらなくなり、形にすべきかどうか、考えあぐねています。

『ウォークマンかく戦えり』(ちくま文庫)、『ビジネスマンのための「個性」育成術』(NHK出版生活人新書)そして『二十世紀の後半をこうして駆け抜けた』という三冊のご著書を、僕は直接いただきました。最後の一冊は出身地である宮崎日日新聞に連載されたものを製本した私家版ゆえ流通はしていませんが、示唆に富んだ内容です。『ビジネスマンの~』の終章では空想生活の活動について紹介してくれ、未来を担う存在だと評価を下さいました。その期待に応えねばと、思いを新たにしています。『ウォークマン~』の解説で、都市問題の専門家である下河辺淳さんは「黒木さんは、おそらく自分のことが分かっていないのではないかと思う」とお書きになっています。僕も同じ考えです。黒木さんの活動をあらわすのに最適な言葉がまだ見つからない時代であり、そのままこの世を去られたのは残念です。でも、本という形でご本人の言葉は残っている。僕はそこから多くのことを汲み取っていきたいと思っています。黒木さん、ありがとうございました。

注)黒木さんは、デザイナーの澄川伸一さんとデザインしたウォッチ(1994年発売)の第二段として電波時計のデザインを検討していらっしゃいました。


二十世紀の後半をこうして駆け抜けた
二十世紀後半をこうして駆け抜けた(1998年)
1998年3月10日から5月29日まで宮崎日日新聞で連載。
筆者は、黒木さんご本人からコピーの簡易製本をいただきました。

ウォークマンかく戦えりビジネスマンのための「個性」育成術
左:ウォークマンかく戦えり (1990年) ちくま文庫 黒木靖夫(著)
右:ビジネスマンのための「個性」育成術 (2001年)
  NHK出版 生活人新書 黒木靖夫(著)
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関連リンク:空想家電ブルータス館「PROSPECTA」