ニシヤマ書店 第30回 民主化するイノベーションの時代
前々回ではアメリカの様々な発明を紹介している本を、前回はロシアの市井の人たちがつくり出した小さな小さな発明(とも言えないような)を集めた本を紹介しました。この2冊を通して僕が伝えたかったのは、開発者や発明家という職業の人たちだけが何か新しいものをつくり出すわけではなく、「これが欲しい」「これが足りない」と強く思っている人たちが、自らの手を使ってものをつくり出すことが実際に行われているということ。それはすなわち僕たち空想生活の活動と通じていて、世界のいろんなところでものづくりのひとつのスタンダードになっていることを実感しているということです。
エリック・フォン・ヒッペル。彼の名をご存じでしょうか。MITの教授で、20年以上前からイノベーションについて研究を続けている人です。彼のまわりにいる人は、敬愛の念を込めて「アンクルエリック」エリックおじさんと呼んでいる。僕も最大の敬意のもと、そう呼んでいます。「イノベーションは、研究者ではなく、道具を使う人からつくり出される」という論を唱え続け、様々な事象からその論を裏付けしています。この数回ニシヤマ書店でテーマにしてきたユーザーイノベーションについて、世界で最も鋭い視点と広い視野を持って研究している存在です。
メーカー側は最大公約数の商品開発であることが多く、汎用性のあるものをつくる(=汎用性のあるものしかつくれない)。でもそれを使うユーザーが特化した存在であればあるほど、専門であり専用のものが欲しい。そこでは専門的な知識を持った人がオーダーを出すことで、商品が生まれるのです。それは特別なことでなく、一般の人たちも行っていて、サーフィンやカヌー、モトクロスやスケボーのような、発明という言葉とは離れているように思える分野で、実は如実に見ることができる。悪ガキのような少年たちが「格好いい!」とつくり出したものが、のちのスタンダードになっている。これぞユーザーイノベーションだとアンクルエリックは言う。学者の関心から最も遠い分野で行われていた活発な発明を、彼の目がしっかりとらえたのです。
個人としてのユーザーが、自らの手を使って工夫を凝らすことが新しいイノベーションを起こすという試みに注目が集まり始めたのは、最近のことです。それはやはり、インターネットの登場が大きく寄与している。きっかけは自分の生活を楽しくするためにつくったものが、あっという間に世界中に広がり、それが大きなビジネスになっていった事例は、You TubeやGarage Band com.など枚挙にいとまがありません。アンクルエリックは、ユーザー主導の商品開発を行っている会社として、エレファントデザインの名を挙げ、そして期待を寄せてくれている。小さな発明が大きなうねりを生み、毎日の生活がより快適になる──何度もみなさんに伝えているこのメッセージ、僕たちが10年間かけて築いてきた活動を、世界のいろんな人たちが共感し、支えてくれている。ユーザーの創意工夫を形にすることを、これからも発信していきたい。
アンクルエリックの著書は、日本語に翻訳されています。この「民主化するイノベーションの時代」もその一冊。実は彼は、エレファントデザインのボードメンバーになってくれています。理論として組み立てたものを、民主的に実践したいと、賛同してくれているのです。
Eric von Hippel(著) サイコム・インターナショナル(監訳) ファーストプレス(2006年1月)
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