ニシヤマ書店 第25回 Make
今年に入って、出張でアメリカに行った時のこと。僕はカルフォリニア・アラメダのとある場所を訪れました。
もともと海軍が使っていた場所で、基地としての設備の大半がそのままのこっています。そこの管制塔を拠点に活動しているグループがあり、中心メンバーはマサチューセッツ工科大学を卒業していて、エンジニアとしての資質を持っている。基地には旋盤やNCルーターといった設備が不足なく揃っていて、工房としては整いすぎるぐらいに整っている。つまり彼らにとってアラメダは、自らの手で必要なもの欲しいものをつくり出せる、願ってもない環境なのです。実際僕が訪れた時も、試作品をバンバン作っていた。僕から見ても、願ってもない、理想的な環境です。
自分たちの欲しいものを自分たちでつくるという、空想生活にもつながる彼らの考えと行動は、非常にシンプルです。風を利用した「カイトサーフィン」の第一人者でもある彼らは、ほかのカイトサーファーたちとネットでアイデアを競い合い、発明を共有しながら、さらに進化させたりもしている。彼らの主な収入源は、そういったウェブの広告収入。前回のロイヤリティー収入とはまた別の方法で、自分たちがつくったもの、あるいは自分たちの生活そのものが、間接的に収入を生み出しているのです。
そして彼らをサポートしている、O'REILLYという出版社があります。オーナーは、WEB2.0の名付け親でもあるティム・オライリー。この出版社が出している『Make』という雑誌は、僕の愛読誌のひとつ。いわゆるDIYの視点に、エンジニアの視点が加わっているといえばいいでしょうか。たとえば壊れたVCRのタイマーとモーターを利用して、猫のエサやりマシーンをつくるアイデアが紹介されている。記事はきちんとマニュアル化されているから、すぐ実践出来ます。この雑誌を見ていると、生活から生まれるアイデアが、大きなものを生み出す可能性を持っていることを、あらためて実感出来るのです。そして、自分が欲しいものを自分でつくることの出来る人が秘めている力の大きさも。
小さな雑誌に込められた、とてつもなく大きなパワーと可能性。ティム・オライリーの慧眼は、世界でも図抜けていると感じ入るのです。そのオライリーは、空想生活にも目を向けてくれている。ここからは何かが始まるかもしれない。シナリオは、少しずつ見え始めています。
この雑誌、僕には『暮らしの手帖』との共通項がたくさんあるように思えます。『暮らしの手帖』はその創刊時、ミカン箱で机をつくり、もんぺをスカートに仕立て替えた。新たな暮らしの実践者という意味で、『Make』は現代のアメリカ版『暮らしの手帖』と呼べるのではないでしょうか。
2005年 O'Reilly Media Inc. 出版