ニシヤマ書店 第20回 ユービック
住宅において、買うか借りるかの二択しかない現状を変えることはできるか?自らに課したこの問いを打破するヒントになりそうなのが、フィリップ・K・ディックが1978年に著した傑作SF小説「ユービック」です。
ディックらしい、魅力ある登場人物が複数登場するなか、僕の記憶に深く残った人物とシーンがあります。それは毎日の生活において、たとえばドアを開ける、コーヒーを淹れる、シャワーを浴びる、こういったことの一行為ごとに、それぞれコイン=一定額が必要なのです。収入がふんだんにある人ならば、そこから後で引かれるけれども、収入の保証がない場合は、毎回コインをチャリーンと入れなければすべての行為がままならないという世界。生活の基盤そのものはもちろん、生活に必要なものはまず供給されて、使った分だけ費用が発生する。光熱費や水道料金といった公共料金のような仕組みといえば、わかりやすいでしょうか。
住宅を先に手に入れて何十年もローンを払い続けるのとも、賃貸とも異なるこのシステム。この考え方で住宅および生活そのものを設定出来れば、結果として「所有」という概念から離れることが出来るのでは、と思うのです。話が飛躍するようですが、飛行機に乗って気軽に遠方に行けるようになったのは、実は最近のことです。以前は飛行機を所有しなければ、空を飛ぶ行為そのものが出来ませんでした。ごくわずかな特権階級の人たちだけが可能なことだったのです。それが巨額の投資をする人、飛行機で言えばハワード・ヒューズのような人物が登場して、野望と資本と政府をも動かす原動力を持ってして、民間の航空会社が誕生した。これによって、飛行機を所有せずとも、フライトごとにチケットを購入すれば、空を飛ぶことが可能になりました。
そう、必要な座席を必要なときだけ購入するように、住宅も生活に必要なものも、使う分だけお金を払うシステムがあってもいいと思うのです。この考え方であれば、一度買ったらずっと使い続けるのではなく、その時に気に入った物を身の回りにしつらえることもしやすいでしょう。
興味を持たれた方は、ぜひ「ユービック」を読んでみて下さい。そして、住宅の手に入れ方の選択肢を増やすアイデアがある方、ぜひ教えて下さい。たくさんのアイデアに、多くのヒントが隠されているはず。「新しい住宅」を、みなさんと一緒につくっていきたいのです。
ユービック
フィリップ・K・ディック (著), 浅倉 久志 (翻訳)
(早川書房)