空想マガジン
ニシヤマ書店 第19回 Neiman Marcus THE CHRISTMAS BOOK
Neiman Marcus THE CHRISTMAS BOOK
身の回りのモノが充実することで、「所有しない」という選択肢が生まれ始めています。言い換えれば、「あるのが当たり前」になったことで、モノへの執着心が薄れる方向が開けたとういうことです。それまでは、いかに多くのモノを個人の領域に取り込むかということに必死でした。家電製品も、自家用車も、家具も、そしてもちろん住宅も。
所有しないという選択肢が生まれた背景には、個人の領域という「内」だけでなく、公共つまり「外」に豊かさを求め始めたことがあると思います。たとえばホテルのロビーを応接室のように使ったり、自分の家で寛ぐような気分で友人たちとカフェで過ごしたり、車を使わず電車やバスを利用して目的地まで気軽に出かけたり。これって、外が危険な場所という認識から、自分の居場所の延長になって来ていると言えはしませんか? 公共が一定以上のクオリティを供給できるようになったことで、所有せずとも自分の領域を広げることが可能になったのです。
極端な例かも知れませんが、所有物としての住まい自体はこぢんまりさせておいて、気軽に海外に出かけて様々な土地の魅力を満喫する層もいます。何より、終身雇用形態や土地神話が崩れつつある現代において、何十年ものローンを組んで土地を購入し、老後は年金で暮らすという未来への設計図の説得力が薄まってきたことを、僕たちは今まさに実感している。土地を持っていることや、企業に属していることだけが安心ではないのだということに、気づいてしまったのです。
「もし住宅が何らかのイノベーションによって車1台分の価格で手に入るようになってしまったら、その時、人々の家に対する執着はこれまでの家に対するものと本当に変わってしまうのだと思う」。前回そうお伝えしました。新しい技術が生まれることによって、モノの値段がグンと下がることがあるのはみなさんもご承知の通り。住宅には、いまだそれが起きていない気がします。洋服のように、豊かなのに安いという住宅が登場すべきだと熱望するのは、僕一人ではないはずで、だからこそこの連載から、みなさんにメッセージを届けているのです。
住宅を取りまく環境で、もう一つイノベーションが必要な事柄があると強く感じていること、それは選択肢の増加です。洋服や食生活などに比べて、住宅は選択肢があまりにも少ない。集約すると、所有か賃貸かの二択しかありません。これまでの「持ち家信仰」から抜け出して、賃貸を希望する層が増えつつあるのは、僕にとっては頼もしい限り。そこからさらに歩を進めて、所有でもない、賃貸でもない道を新たに開いていきたい。この道は、あるとき突然見えてくるかも知れません、たどり着くまでは険しいかも知れません。けれども決して狭くはないと、僕は信じているのです。

Neiman Marcus THE CHRISTMAS BOOK
一冊のカタログに、同じドレスでもスタイルも値段も異なるものが並んでいる。こういう売り方であれば、消費者には選ぶ権利があって、好みのものを探し出す喜びがあるのではないでしょうか