
「自分が潜在的に持っている感性をどんどん高め続けていきたい。それを植物がサポートしてくれるのです」というのは、花道家の大久保有加さんです。大久保さんは、草月流設立時のメンバーだった州村公束さんをお祖父様に、生け花作家である州村衛香さんをご母堂にもち、幼い頃から生け花に囲まれた生活を過ごしてきた方。グランドプリンスホテル新高輪にある「IKEBANA ATRIUM」で定期的にワークショップを開催するほか、さまざまなショップやホテルなどのディスプレイを手がけたり、『花と音楽の夕べ』と題したイベントの開催、子どもたちに花の楽しみ方を伝える「花育」の普及に努めるなど、花をテーマに多方面で活躍なさっています。
「花や緑に囲まれてはいましたが、自然のなかの植物ではない。花や緑に親しめば親しむほど、自然や大地にもっともっと近づきたいという気持が強まったのが、20代の時間でした」
――学校を出て、生け花の道にそのまま進むべきかどうか真剣に考えつつ、書き手として花の魅力を伝えようと、編集者・ライターとして忙しく過ごした大久保さん。さまざまな人や環境を通して、花の魅力を知れば知るほど、「もっと伝えたい」という気持も高まったそうです。
「伝えたいという気持が先行して無理をしてしまい、20代後半に身体をこわしてしまいました。そこでリセットして、自分が活け手として参加するようになりました。花を通してさまざまなことに『気づくこと』のきっかけづくりをしたい、そう思って活動を続けています」
「30年後、自分が何をしているか……。これまで私が生きてきた時間の中でも、いろんなことが進化してきました。それを考えると、この後の30年間にはもっと進歩のスピードが進んで、極端に言えば何でも出来ちゃうような世の中になっていると思います。だからこそ、その時に何をするかというのは、モチベーションの持ち方ひとつでいかようにも変わる。未来に向けていい時間を過ごすためには、『今』が大事。将来『こうなりたい』と思うことって、誰にでもありますよね。イメージ出来るものは実現できると私は思っています。そこを超える想像の世界へ向けてトライするのが面白い。そして想像し得なかったストーリーまでもが現実になっていくこと、それが生きている醍醐味だと思うのです」
――大久保さんはとてもしなやかな、そして笑顔の素敵な方であると同時に、とても芯の強い女性だということが、このコメントからも伝わってきます。
「植物を使って自己表現することが草月流の姿勢です。それまで武士のたしなみだった生け花が女性に対して門戸が開かれ、床の間を飛び出して花を生けることの楽しさを伝えたのも草月流。30年って、生け花のはかない時間に換算すると3日ぐらい。限られた時間の中で1本の花をどう活かせるかを考えるのは貴重なこと。活かされた花によって、空間のあり方も変わり、そこにいる人の意識も変わる。つまり生け花は私たちのコミュニケーションの場を作ることにつながっているのです」
――1本の花のなかに自然があり、それを見つけることで人間の感性が高まっていく。凝縮された時間が生け花にはあるからこそ、花に思いを託したいという大久保さんの言葉は、説得力に満ちています。
――30年後を想像するためには、いまの自分を見つめることが大事だという大久保さん。「もちろん未来を想像するのは大好き。妄想に近い域かも知れません」と笑います。
「これからは、具体的に目に見えるわけではない『暮らし方』に敏感になっていくでしょう。いまってモノがあふれていて、情報もものすごくたくさん入ってきます。それはとても便利だけれども、失われていくこともある。例えば季節感。食べ物と同じように、どんな切り花も1年中手にはいるようになった反面、季節の移り変わりの中で見えていたものが見えなくなってしまっています。だからこそ、自分自身のセンサーを敏感にしていきたい。それには常識にとらわれず、自分に素直になることも大事ですよね」